海外勤務とメンタルヘルス6
4. 人間関係
海外勤務が決まると、周囲の人から「すごいね!」「うらやましい!」と言われることが多いかもしれません。たしかに、キャリアアップや新たな挑戦の場として、海外勤務は貴重な機会になります。一方、華やかなイメージとは裏腹に、実際に現地での生活が始まってみると、それまでにない寂しさを感じることがあるのです。
たとえば、日本で働いている時は、同僚とのランチやちょっとした立ち話が、日々の息抜きになっていたりしませんか。最近、犬を飼い始めたんだ、とか、ちょっと気難しい顧客がいてさ、など、たわいない会話が職場の潤滑剤として働くこともあります。ところが、海外の職場では、言語や文化の違いから、同じような会話の流れが生まれにくいのです。
例えば、ランチタイムに同僚が和気あいあいと雑談していても、何を話しているかがわからなければ、気軽にその輪に入っていくのは難しく感じることでしょう。
「別に無視されているわけではない」と頭ではわかっていても、会話がないと、「受け入れられていないのかも…」と感じてしまうのが人間の心というもの。
また、日本に残してきた家族や友人との関係も、物理的な距離だけでなく、心理的な「時差」が生まれてきます。

こちらが夜でゆっくり話したい時に、向こうは朝の通勤ラッシュ。こちらが日常の悩みを聞いてほしい時に、相手は忙しくて対応できない。最初はマメに連絡を取っていたのに、次第にやりとりが減っていく…。

「みんな忘れちゃったのかな」
そんな気持ちが、ふと心に影を落とすことがあるかもしれません。
海外で自分が経験している喜怒哀楽も、同様の経験がない相手にはピンとこないものです。感情を共有できないのは、寂しくもどかしいこともあるでしょう。
気付けば、赴任前より誰かと会話するということが減ってしまったという人も。
「ひとりで過ごす時間」自体は、必ずしも悪いことではありません。むしろ、自分のペースで過ごす時間を楽しめるようになると、海外生活の幅もぐっと広がります。
ただし、それが「誰にも頼れない」「話せる人がいない」という「孤独」に変わってしまうと、メンタルにとっては要注意信号。黄色いランプが灯った状態です。知らないうちに、不眠や食欲低下などのサインが出てくることもあります。
では、どうすれば海外での人間関係と心の健康を守れるのでしょうか?
次回は、「海外での人間関係を育てるコツ」や「心理的な孤立を防ぐ方法」について、もう少し掘り下げてご紹介したいと思います。
渡航者医療センター 松永優子



